会社勤めをされている方の中には、上司の無茶ぶりがひどくて毎日仕事に行くのが辛い、毎日サービス残業ばかりでもう疲れた、こんなブラックな職場辞めてしまいたいと思いつめている方もいるのではないでしょうか。
しかし、会社の雰囲気によっては辞めますと言い出しづらかったり、辞めますと言ったら引き止められるなど、どうしても自力で辞めることが難しい場合もあります。中には、退職したいと言うと会社から脅されたというケースすらあります。
そんなときにあなたの代わりに退職することを職場に伝えてくれるのが退職代行サービスですが、この退職代行サービスを使った場合、有給休暇はどうなるのでしょうか。有給休暇の権利があるのに使えずに退職してしまうのはもったいないですよね。
そこで、退職代行サービスを使った場合に有給休暇を消化できるのか、消化できるとしてもどうやって消化すればいいのか、退職にあたっての手続きの流れをご説明します。
目次
有給休暇とは
有給休暇といっても、具体的にどのような場合に何日権利が発生するのか、いつどうやって使えばいいのかといったことについて正確に把握しているという方は少ないのではないでしょうか。
そこで、退職代行サービスを使ったら有給休暇がどうなるのかご説明する前に、まずは有給休暇がどのようなものなのか確認しておきましょう。
有給休暇は法律上の権利
そもそも有給休暇とは、お給料をもらって休むことができる制度です。一定の要件を満たした場合に、従業員は有給休暇の権利を取得することができることが労働基準法に定められています。
従業員の中には、会社から「うちの会社には有休はない」と言われて「自分が勤務している会社に有休の制度がないなら仕方ない」と有給休暇の取得を諦めてしまっている方がいます。
しかし、有給休暇は会社が好意で従業員のために与える制度ではなく、法律上定められた制度です。つまり、会社が有給休暇なんてないと言っても従業員には有給休暇を取得する権利があるのです。
有給休暇の日数
法律上、有給休暇は、勤務開始日から6ヶ月以上勤務を続け、かつ80%以上出勤した場合に権利が発生します。そして、最初の6ヶ月継続して勤務した場合は、有給休暇の日数は10日間となり、それ以降も勤務を継続して80%以上出勤すれば1年ごとに日数が増えていきます。
具体的な有給休暇の日数は、次の表の通りです。
継続勤務日数 | 6ヶ月 | 1年6ヶ月 | 2年6ヶ月 | 3年6ヶ月 | 4年6ヶ月 | 5年6ヶ月 | 6年6ヶ月 以上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
有給休暇日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
ただし、会社によっては法律で定められている有給休暇の日数よりも多くの日数を有給休暇として付与していることもあります。あなたの会社が有給休暇の日数についてどのように定めているか、就業規則を確認してみましょう。
なお、正社員でなければ有給休暇はもらえないと思っている方もいますが、有給休暇の権利は雇用形態にかかわらず付与されます。そのため、パートやアルバイトであっても、所定労働日数に応じて有給休暇の権利を取得することができます。
例えば、週3日勤務のパートの方であれば、勤務開始から6ヶ月で5日、6年6ヶ月以上で11日の有給休暇の権利が発生します。
具体的な有給休暇の日数は、次の表の通りです。
継続勤務日数 所定労働日数 |
6ヶ月 | 1年6ヶ月 | 2年6ヶ月 | 3年6ヶ月 | 4年6ヶ月 | 5年6ヶ月 | 6年6ヶ月 以上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
週4日 | 7日 | 8日 | 9日 | 10日 | 12日 | 13日 | 15日 |
週3日 | 5日 | 6日 | 6日 | 8日 | 9日 | 10日 | 11日 |
週2日 | 3日 | 4日 | 4日 | 5日 | 6日 | 6日 | 7日 |
週1日 | 1日 | 2日 | 2日 | 2日 | 3日 | 3日 | 3日 |
有給休暇の取得方法
従業員の請求が必要
有給休暇を実際に取得するためには、原則としてそれをいつ使うのか従業員が決めて会社に申し出る必要があります。
ブラックな会社では、「有休を使うことは認めない」「有休なんて使ったら他の社員にどれだけ迷惑がかかると思っているんだ」などと言われて、泣く泣く有給休暇の取得を諦めている方がいます。
しかし、本来有給休暇は法律上当然に権利が発生するものなので、有給休暇を取得するのに会社の承認は必要ありません。つまり、会社は従業員が「この日に有給休暇を取得したいです」と言ってきたら、原則としてそれを拒否することはできないのです。そのため、基本的には有給休暇を取りたい日を会社に伝えることによって、その日に有給休暇を取得することができます。
また、有給休暇は何に使っても自由です。会社が有給休暇を何のために使うのか聞いてきたとしても、答える必要はありませんし、会社が有給休暇の目的によって有給休暇を承認するかどうかを決めるということもできません。
会社が有給休暇をとる日を指定するケース
ただし、従業員が指定した日に有給休暇を取得することによって、事業が正常に運営できなくなる場合には、会社は別の日に有給休暇を付与することができます。事業が正常に運営できなくなる場合とは、その従業員の代わりがおらず、その従業員がいなければ仕事がまわらなくなってしまうような場合をいいます。
有給休暇の時効
有給休暇は、権利が発生してから2年が経過すると時効によって消滅してしまいます。
例えば、4月に有給休暇の権利が発生したとすると、それをその年度中か翌年度中に消化しないと消滅してしまうことになります。つまり、有給休暇の権利は1年だけ繰り越せるということになります。
仕事が忙しくて有給休暇がどんどんたまっていくという方もいますが、使わなければ何年分もたまっていくわけではないので注意が必要です。
不利益取り扱いの禁止
ブラックな会社では、有給休暇を取ると昇進にひびくということをちらつかせて有給休暇を取らせないようにしているところもあります。
しかし、有給休暇を取ったことを理由として不利益な取り扱いをすることは原則として違法です。判例も、有給休暇をとった日を欠勤扱いとして出勤率を計算し、その出勤率に基づいて昇給や賞与を算定することは許されないと判断しています。
退職する際の有給休暇の処理
有給休暇が残っていたら消化できる?
一般的に退職する際には、業務の引継ぎなどが必要になるので、退職日まで余裕がないこともあります。そのため、会社が有給休暇を使うことを認めてくれず、結局有給休暇をすべて消化せずに退職してしまう方もいます。
しかし、本来であれば退職する際に有給休暇が残っている場合は、残っている有給休暇をすべて消化して退職することができます。
なぜなら、いくら事業が正常に運営できなくなる場合に会社が別の日に有給休暇を付与できるといっても、退職日以降に有給休暇を付与することはできないからです。そのため、退職する際に従業員が有給休暇を消化する場合は、会社はそれを拒否することはできません。
有給休暇を消化しきれなかったら?
では、退職日までに有給休暇を消化しきれなかった場合はどうなるのでしょうか。
例えば、退職日を2週間後として会社に伝えたものの、よくよく確認してみると有給休暇が20日残っていた場合には、退職まで毎日有給休暇を取得したとしても、10日分の有給休暇が残ってしまいます。
この場合、原則として10日分の有給休暇の取得は諦めるしかないでしょう。そのため、退職日を伝えるときは、まず有給休暇が何日残っているか把握した上で、業務の引継ぎに必要な日数も考慮に入れて退職日を決める必要があります。
ただし、会社によっては消化できなかった有給休暇を買い取ってくれることもあります。
原則として、会社が有給休暇を買い取ることは禁止されています。なぜなら、有給休暇は、心身を休めて疲労を回復し、リフレッシュすることを目的として付与される権利なので、お金に換えてしまってはその目的が果たせないからです。
しかし、退職時にはこのような目的を果たす必要はなくなるため、例外的に退職時の有給休暇の買取りは認められています。ただ、退職時の買取りは義務ではないため、買取りをするかどうか、買取りをするとしてもいくらで買い取るかは会社の判断に委ねられています。
勤務先の会社が買取りを行っているかどうかについては、就業規則に規定があるはずですので、まずは就業規則を確認してみましょう。
退職代行業者を利用した場合の退職手続き
有給休暇日数を確認
まず、あなたの有給休暇日数が何日残っているか確認しましょう。
有給休暇の日数は上述した通り法律で定められているので、そこからすでに有給休暇を取得した日数を差し引けば残っている有給休暇の日数を確認することができます。また、会社が法律で定められているよりも多く有給休暇を付与している場合もあるので、念のため就業規則も確認しておくことをおすすめします。
退職代行業者と退職希望日を打ち合わせ
有給休暇の日数が確認できたら、退職代行業者の担当者と退職日の打ち合わせを行います。有給休暇を無駄なく消化するためには、残っている有給休暇の日数が経過した日を退職日として指定する必要があります。
退職代行業者が会社に退職する旨と退職日を伝える
退職日が決まったら、退職代行業者が会社に退職する旨と退職日を伝えてくれます。このときに、退職日までは有給休暇を取得することも合わせて伝えてもらいます。こうすれば、会社に出勤しないまま退職することができます。
退職
退職代行業者が会社に退職する旨を伝えたら、たとえ会社が退職を認めないと主張したとしても、原則として2週間が経過することによって雇用関係は終了することになります。そうすると、晴れて会社との関係はなくなります。
会社が有給休暇の給与を支払ってくれない場合は?
そうはいっても、有給休暇は会社が給与を支払ってくれなければただの休暇になってしまいます。退職することを伝えた後、会社がすんなりと給与を支払ってくれれば問題ありませんが、そんな会社ばかりではないのも現実です。
では、会社が有給休暇分の給与を支払ってくれない場合はどうしたらいいのでしょうか。
退職代行業者では会社との交渉がNG?!
退職代行業者に依頼したから退職代行業者に給与を請求してもらえばいいのでは?と考える方もいるかもしれません。しかし、基本的には退職代行業者では会社に対する給与の請求はできないことがほとんどです。
というのは、弁護士資格を持たない者が給与の請求のような法律事務を行うことは違法だからです。もし弁護士資格を持たない者が法律事務を行った場合、2年以下の懲役または300万円以下の罰金刑が科されることになってしまいます。
そのため、基本的には退職代行業者でできるのは、あくまであなたの代わりに退職する旨を会社に伝えることだけです。弁護士資格を持っていない退職代行業者が会社に対して給与の請求を行うことはできません。
たとえ弁護士資格を持っていない退職代行業者が会社に対して給与の請求をしたとしても、会社が応じてくれないでしょう。
給与支払い交渉は弁護士に依頼
会社が有給休暇分の給与を支払ってくれないというケースの他にも、退職代行サービスが会社に退職する旨を伝えたときに、会社から「有給休暇の時期を変更してもらえないか」「業務の引き継ぎをしてから退職してほしいので退職日を遅らせてもらえないか」などと退職条件や退職時期について交渉を持ちかけられるケースもあります。
これらのケースでも、退職代行業者があなたに代わって交渉することはできません。しかし、退職代行サービスに依頼するということは、もう会社に行きたくない、上司と顔を合わせたくないという場合であることがほとんどだと思いますので、いまさら直接会社と交渉をするなんてできないと思ってしまいますよね。
そんなときは、弁護士に依頼するのがおすすめです。弁護士であれば、あなたの法的権利をきちんと主張して会社と交渉をしてくれますので、有給休暇を消化した上で希望する日に退職するという方向で円満に解決できる可能性が高いです。万が一退職した後に給与が支払われない場合にも、弁護士であればあなたの代わりに未払い給与の請求を行ってくれます。
「退職代行を使うと有給休暇はどうなる?」まとめ
以上みてきたように、退職代行サービスを使って退職する場合、残っている有給休暇の日数を確認し、それに合わせて退職日を決めると有給休暇をすべて消化して退職することが可能になります。有給休暇の権利は法律で定められた権利なので、堂々と行使して構いません。
ただし、会社がすんなりと応じてくれない場合には、弁護士に交渉を依頼するとよいでしょう。