「辞めたいと言っても取り合ってもらえない」「上官が怖くて話を切り出せない」
そう感じている自衛隊員も多いと思います。そんな時に頭をよぎるのが「退職代行」ですが、民間企業向けに広まったサービスを、そのまま自衛官が使えるわけではありません。
自衛隊には、法律が隊員に課している制約や退職制度の特殊性があり、使うことができる退職代行は弁護士のみとなります。
このページでは、自衛官の退職について、なぜ弁護士の退職代行しか対応できないのかについて解説していますので、退職代行の利用をお考えの自衛隊員の方は、ぜひ参考にしてください。
自衛官の退職代行が弁護士一択な理由

自衛官の退職代行について触れる前に、退職代行の種類と違いについて見ておきましょう。
退職代行は運営者で3つに分かれる
退職代行は、以下の表のように運営者により大きく3種類に分かれます。
| 運営者 | 弁護士 | 労働組合 | 民間企業 |
|---|---|---|---|
| 法的根拠 | あり 弁護士法 |
あり 労働組合法 |
なし |
| できること | 法律事務に関する全て | 退職に関する調整・交渉 | 退職意思の伝達のみ |
| 雇用契約 | 問わない | 必要 | 必要 |
3つの種類のうち法的な根拠があるのは弁護士と労働組合となりますが、労働組合は対応する際に雇用契約の存在が必要となる一方で、弁護士は雇用契約以外(例:業務委託契約など)であっても契約を解除する交渉が可能です。
自衛官の退職について

実は自衛官には雇用契約は存在しません。
自衛隊員は民間のような「雇用契約」で働いているわけではなく、特別職の国家公務員として雇用契約ではなく「任命」に基づいて働いています。
【自衛隊法 第31条 第1項】隊員の任用、休職、復職、退職、免職、補職及び懲戒処分(次項において「任用等」という。)は、幹部隊員にあつては防衛大臣が、幹部隊員以外の隊員にあつては防衛大臣又はその委任を受けた者(防衛装備庁の職員である隊員(自衛官を除く。)にあつては、防衛装備庁長官又はその委任を受けた者)が行う。
【出典:e-Gov】
自衛官の退職は「交渉」が必要
民間企業の従業員なら、例えば正社員など期間の定めのない雇用契約の場合、法律により、会社が認めなくても退職意思を伝えてから2週間で雇用契約が終了させることができます。
【民法 第627条 第1項】
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申し入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申し入れの日から2週間を経過することによって終了する。【出典:e-Gov】
それゆえ「意思を伝えるだけ」の退職代行が成り立つわけですが、自衛官の場合、退職する際は権限を持つ任命権者に申し出て承認を受けることが必要となります。
民間企業のように通知するだけで一方的に退職が成立するわけではありませんので、「今月末で辞めます」と職場に告げるだけでは退職は成立しません。
さらに自衛隊法では、任命権者が一定期間は退職を承認しないことができるとされています。
【自衛隊法 第40条】隊員の退職について権限を有する者は、隊員が退職することを申し出た場合において、これを承認することが自衛隊の任務の遂行に著しい支障を及ぼすと認めるときは、その退職について政令で定める特別の事由がある場合を除いては、任用期間を定めて任用されている陸士長等、海士長等又は空士長等にあつてはその任用期間内において必要な期間、その他の隊員にあつては自衛隊の任務を遂行するため最少限度必要とされる期間その退職を承認しないことができる。
【出典:e-Gov】
任務に著しい支障が出ると判断されれば、退職時期を先送りされることもありえる為、部隊側との調整と交渉が必要となります。
民間企業の退職代行は利用できない!
自衛官は労働組合に加入できない
自衛隊員の場合は、自衛隊法により勤務条件等に関して国の利益を代表する者と交渉するための組合その他の団体を、結成することも、これに加入することも禁じられています。
【自衛隊法 第64条 第1項】隊員は、勤務条件等に関し使用者たる国の利益を代表する者と交渉するための組合その他の団体を結成し、又はこれに加入してはならない。
【出典:e-Gov】
労働組合の退職代行を利用する際は労働組合に一時加入することになりますが、自衛隊員の場合、組合に加入すること自体が服務規定違反に問われる可能性があり、懲戒処分の対象になることもありえます。
労働組合の退職代行も利用できない!
自衛官は弁護士の退職代行一択

ここまでの内容をまとめると、
- 雇用契約が存在しない
- 退職の承認を受ける為、部隊との交渉が必要
- 労働組合への加入ができない
自衛官が退職代行を使う際には、以上のような制約があるため、民間企業や労働組合の退職代行が使えず、対応できるのは弁護士の退職代行のみとなります。
弁護士の退職代行で対応できること
弁護士が代理人になると、以下のような対応が可能になります。
- 受任したことを書面で部隊側に通知し、窓口を一本化する
- 宿舎からの外出制限・外泊制限を解除する
- 退職者に代わって、法的な根拠に基づき退職の意思を示す
- 承認手続きについて交渉する
- 退職時期を先送りされないよう交渉する
自衛官の退職は、階級によっても対応が異なります。
任用期間を定めて任用されている隊員(陸士長等、海士長等、空士長等)と、それ以外の隊員とで、承認を留保できる期間が違ってきます。任期の途中で辞めたいのか、任期満了を待つのかによって、取るべき対応も変わりますので注意が必要です。
まずはご自身の階級を弁護士に伝えて、相談するようにしましょう。
まとめ

自衛官の退職は、民間会社の退職とは異なる点が三つあります。
第一に、退職が任命権者による承認制であること。第二に、任務への支障を理由に一定期間は退職の承認が認められない場合があること。第三に、自衛隊法により労働組合に加入できない(労働組合の退職代行が使えない)ことです。
したがって、自衛隊員が依頼できる退職代行は「弁護士一択」となります。
ただし、弁護士に依頼しても、すぐに退職できるわけではなく、所属や階級、任期の状況、懲戒処分の有無によって変わります。退職を上官に切り出す前に弁護士へ相談することをおすすめします。